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一手、二手、三手
ロングラックは目の前で繰り広げられる打ち合いを感嘆の表情で見つめる。
訓練生全員(ハインラッドは年だからと辞退)が教官に打ちのめされて、さて残ったのはガンホーに乗船して日が浅いマッハキック。
実戦経験のある者同士の組み手ともなればやはり何かしらの期待がかかる。
あるいはビッグコンボイに一本取れるという期待が。
十手辺りを過ぎたところでチッと舌打ちしたのはコラーダ。
恐らくは彼自身が先ほど一本取られた時の手を上回った悔しさからだろう。
スタンピーなどいつものへっぴり腰で六手目で打ち負かされていたが。
十五手目を過ぎるとお互い距離を取り合った。
ここからは確実に取れる隙を探りあい、尚且つ息を整える好機にもなる。
構えは崩さぬまま、ちらりとこちらを一瞥する二人。
「あまり派手な技は使うなよ?」
「こう期待されちゃあ、つい出したくもなるモンですがね」
茶化しあうような会話すらできる余裕を見せつつ、再度組み合う。
何度か打ち合い、マッハキックが連続蹴りを放ったところで再び大きく距離を取る。
「・・・今のは」
「もちろん」
その問いかけに不敵な笑みで返す(バトルマスクこそすれ、ここの乗組員は彼の表情がなんとなく分かっていた)ビッグコンボイに同じように笑って返すマッハキック。
「二十手目、ですね?」
「普通はな」
二人の会話を聞き、コラーダはほら見ろと言わんばかりに隣で伸びているブレイクを見やった。
一発が1カウントだと言い張ってラッシュをかけ、颯爽とスタミナ切れでKOされた様を見たのは何時ごろだったか。
さてそろそろ終わりが見えてきたなと、ハインラッドは思った。
確かに訓練生よりかは長くビッグコンボイと打ち合えてはいるものの、マッハキックの疲労は見て取れた。
恐らくはここから最後の攻めを見せることだろう。
そ知らぬ顔の老兵は、やはり知らぬ存ぜぬといった顔でのんびりと観客に扮していた。
十分に息を整えた後、再度構え直したマッハキックはやはりこれが最後のチャンスになるだろうと考えていた。
どう頑張ってもこれ以上は体力が持たない。だのに目の前の相手は息が乱れた様子もない。
ソルジャー。まさにその言葉が相応しい存在だ。
ならば今の自分の全てでもって攻め、そして潔く負けよう。
それが彼なりの尊敬の表し方だった。
間合いを取り合っていた中で、最初に動いたのはマッハキックだ。
勢いよく飛び込みその勢いのままスライディングをかけた。
直進的な攻撃に当然ビッグコンボイは避ける。が、避けた時点でマッハキックはトマホークを地面に突き立てた。
反動のままに後ろに回転すると、今度はその自慢の足を使って一気に間合いを詰めた。
手にある武器はもう無い。頼るのは己の体のみ。
最後の一駆けで最大速度を上げて標的にぶつかった。
最後に何が起きたのはスタンピーにはよく見えなかった。
見えなしなかったが、彼の耳は何が起きたのか聞き取ることはできた。
衝突の起こった場所に立っているのはビッグコンボイで、彼の視線の先、壁に激突しているのがマッハキック。
お互い無事とは言いにくいが、とりあえずは生きている。
最後の一撃。あの時、マッハキックがビッグコンボイに加えた一撃の後に別の衝撃音がした。
それが彼を吹き飛ばしたものの正体だろう。
マッハキックは一応意識はあるらしく、よろよろと両手を挙げ降参の意を表した。
「・・・最後の最後に、イイ膝が入りましたよ」
「こっちも中々のダメージだがな」
ビッグコンボイはそうは言うがなんともないようにマッハキックのところまで歩み寄り、手を貸した。
「だがな、いくら練習試合とは言え、全力を振り絞るものじゃない。お前の役目は命を懸けて敵に向かうことではないんだ。それを忘れるな」
「・・・ハイ」
そんな会話をして、未だに足元の覚束無いマッハキックに肩を貸し、ビッグコンボイは休んでいた訓練生に向かって言った。
「今日の訓練はここまで。全員リペアルームで休養を取るように。ここの片付けは私がしておくから、誰かマッハキックを運んでやってくれ」
その言葉で一同は腰を上げ、コラーダとスタンピーはブレイクを、ロングラックとハインラッドはマッハキックを抱えて訓練室を後にした。
後に残ったビッグコンボイは大荒れに荒れた部屋を、特にマッハキックがぶつかった壁を一瞥した。
「・・・・・・いい一撃だった。が、俺も大人気なかったか、な」
ぶつかった衝撃の大きさに、意図せずカウンター気味に膝蹴りを放ったことを思い出してそう呟いた。
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療養
ワイワイガヤガヤと騒々しい音がリペアルームに近づく。
もっとも、いつもの活気のある騒がしさではなく、疲労に関する愚痴のざわめきだが。
一人での歩行が困難なほど疲弊したマッハキックはいの一番にカプセルの中に放り込まれ、スリープモードに移行したのを確認したロングラックはとりあえず一息つき、今回大してダメージの無いハインラッドなどはさっさと自室に帰った。
今一番騒がしいのは、ブレイク・コラーダ・スタンピーの3匹で、移動中に目を覚ましたブレイクが組み手の結果を聞いてギャンギャン騒いでいる。
「なぁーんでだよっ!オレあんだけ当てたじゃん!?」
「だーかーら!今回の採点方は1HITじゃなくて1COMBOだっつーの!!」
「今回の補習はボクとブレイク君だけかな。十手行かなかったわけだし・・・」
「3人とも!騒いでいないで早く休むんだ。いつ不測の事態が起きてもいいように体調は万全に――」
委員長気質のロングラックの小言が出始めてうんざりした表情になる3匹。
「おい、ブレイク!いつまで人におぶさってる気だ。早く 下 り ろ!」
「しょーがねーだろ!!ビッグコンボイがオレの脳天にネリチャギブチかましたせいで未だに目ン玉ぐるぐる回ってんだよっ!!!」
コラーダとブレイクの会話にそれは要リペアなのでは、と思うスタンピー。
というより、あの大型級のビッグコンボイからの踵落とし。
外野から見ていただけでも痛そうな音がしたというのに、本人は振り下ろされ地に沈められるまでを体験したわけなのだから末恐ろしい。
と、ここにきいてブレイクが面白そうなものを見つけたようだ。
「おいコラーダ。オレはまだ立てねーしお前も早く休みたいよな?」
なんだよ、という表情を向けるコラーダにブレイクは更に言う。
「あそこの大型用のカプセル使えば、2人や3人まとめて入れそうじゃね?」
「お前なに言ってんだ」
ブレイクが指差したのは、彼の言ったとおり大型トランスフォーマー、現在のガンホーではビッグコンボイが使用するリペアカプセルだ。
バトルモードのビッグコンボイがそのまま入れるというだけあって、かなり広い造りにはなっている。
「あれはビッグコンボイが後で使うやつだろ。俺たちは一般サイズの。第一、誰がおめーと一緒に入りたいかよ!」
「いーじゃん、いーじゃん!オレ、一度あっち使ってみたかったんだよ。なんかスゲェ快適そうじゃん?」
そういうブレイクの言葉でちらりと大型カプセルに視線を向けるコラーダ。
確かに成長期の新兵には、今のカプセルは少々きつくなり始めていて窮屈な思いをしていた。
「・・・しょーがねーな。おめーがそこまで言うなら一緒にオネンネしてやってもいいぜ」
コラーダは小馬鹿にした物言いだったが、要望が叶ったブレイクはその皮肉に一切気づきはしていなかった。
「よっしゃ!おいスタンピー、お前も一緒に入るんだよ」
「・・・ぇえ!?ボクもー!!?」
「おうよ、『死なばもろとも』ってやつだ」
「怒られるときは全員でなー」
いつの間にかしっかりと両腕を掴まれて逃げようのないスタンピー。
そもそも気の弱い彼がこのいたずらっ子共の提案を断れる可能性の方が低いので、結果は当然見て取れた。
「・・・・・・コラーダ君には、補習手伝ってもらうからね」
『うわっ。広!』
『思ったよりまだ余裕あんじゃねーの、コレ』
『うわわわ』
くぐもった、けれど明らかにテンションの高い声が聞こえて、ロングラックは自分のカプセルの中で目を覚ました。
辺りを見渡せば、先ほどの3匹が仲良く大型用のカプセルで浮いている。
『こらー!」
慌ててカプセルを開けると、3匹は揃って見つかった!という顔をした。
「何をしているんです。そこはビッグコンボイが使う場所でしょう?」
まあまあと宥めるスタンピーを尻目にブレイクは不貞腐れたように言う。
『だってよー、隣にもう一個あるじゃん。オレ、要介護だからまとめて入ろうぜーって』
「訳のわからないこと言ってないで早く出なさい!」
『落ち着けって委員長サンよ。それより、ここまだ結構余裕があるみたいなんで、どうよ?』
ペンギンとコブラとウサギが入っても、精々中型のトランスフォーマー程度の場所しか取らないので随分とスペースが余る。そこに入らないかというお誘いだ。
「いや、でも・・・」
『ちょっとだけ、ちょーーっとだけだから、な!』
『お前もこの広さ体験してみたらどうだ。結構感動モノだぜ?』
(勝手に決めた)委員長ポジションというものがあったが、やはり好奇心を抑え切れなかったロングラックが3匹の説得に陥落するのにはそうそう時間はかからなかった。
『おぉー・・・・・・』
『マジかよ。4人入ってもまだ余裕ありとか』
『これがコンボイの待遇ってわけか。クゥ~、羨ましいぜ』
『・・・いやこれ大型用のなんだけど。って聞いてないですよね~』
各々の感想を呟いてこれまた各々であちこちを触り始める訓練生。今彼らを止める者は誰一人としていない。
『この赤いのって自爆装置かなんか?』
『リペア装置にそんな物騒なモンついてるわけねーだろ、緊急停止装置とかそんなところだ』
『外に出る時は・・・ここのセンサーかな?』
『あ、何でしょうこのボタン』
ポチ、っとカプセルの底についたボタンをスタンピーが何気なしに押した。
途端にカプセル内にブワっとガスが溢れた。
『わあああーーー!?なになになに!何だこれーーー!!』
『おいスタンピー、おめー余計なことしてんじゃねー!!』
『ご、ごごごめんなさーいい!!!』
『これは!医療用の麻酔ガスです!!みんな寝てしまいます!吸わないで!!』
無茶言うな!とロングラック以外の全員が答えた。その間にもガスはどんどん放出され、それに比例するようにカプセル内部の者たちの意識が遠のき始めた。
(き、緊急停止装置。さっきブレイクが言っていたやつ。あれはどこだ!?)
一人、また一人とガスで昏倒していく中で、ロングラックは必死で事態を解決させようとした。
(あ、あれだ!)
ようやく見つけた停止装置に精一杯手を伸ばす。無事に装置を作動させられたかどうかの間で、彼もまたガスのため意識が遠のいた。
一番先に目が覚めたのは、やはりロングラックだった。
(あれ?私は確か・・・)
ぼーっとする頭を軽く振り、先ほどまでのことを振り返る。
一体どのくらいスリープしていたのか、その間なにか問題が起きてはいなかったか。
そういったことを確認しようとナビに通信をかけようとしたところで彼は固まった。
ロングラックはカプセル入り口の真正面にいるのだが、彼の視界の右端、ぎりぎり見えるところに見覚えのある人物が座っていた。
(ビ、ビッグコンボイ!?)
彼の思った通り、カプセルの横に座っているのは先ほどまで訓練をしてくれていたビッグコンボイだ。
見えるのは後姿だけだったが、ただ座っているだけというより、心なしか頭部が俯きがちで、どう見ても眠っているようだった。
(え!なんで!?ビッグコンボイ、隣のカプセルを使えば――)
そこまで考えて、ハッとあることを思い出した。
ほんの数日前にナビに言われたこと。
ビッグコンボイが使う大型のリペアカプセルの内、一機が故障してしまっていること。
そのため、現在使用できるのがこのカプセルでしかないこと。
(あ、あわわ・・・)
『みなさーん!起きてくださいーーー!!』
ロングラックの大声がガンホー船内に木霊した。