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外が騒がしい。
なんとか平熱手前まで下りた体を起こし、外へ出る。
情けないことに、つい先日まで風邪で寝込んでいた。
そのため、今でも鼻が機能していない。
床に伏せている間、あの嫌みったらしい鳥男に散々嫌味を言われた記憶がある。
オカマもどきめ、誰が副官の勤めを譲るものか。
わいわいと騒がしい方向に、音源は庭の池辺りだろうかと考えながら足を進める。
「・・・なんだ、これは」
角を曲がった先に広がった光景に絶句した。
その場には家の者が全員集まり、壮絶な状態になっていた。
ます、池の中にスリングが入っており、しきりに体をぬぐっている。
その近くにナルシストのセイバーバックが地面に伏したまま動かない。
その二名から距離をとりつつこの状況を楽しんでいるのは、D-NAVIか。
すでに混沌としている状況だが、庭の二名を取り囲む外野もさらに混沌としていた。
我々の上司であるマグマトロン様は、宿敵であり最近にやってようやく嫁いできたかのワンマンズアーミー・・・いや、女性なのだからワンマンではないか・・・ビッグコンボイを抱きかかえて制止させている。
その背後でデッドエンドが正座している。おい、働け。
「だぁー!くっせーーーーー!!」
「だから大丈夫だから!離せ!」
「いいから黙って座っていろ!あの発臭源に近寄るな!!」
「あーもー、くっさいわねー!」
「・・・・・・・・・」
なんと言い表せばいいのか分からないが、間違いなく日常的ではないこの光景に、ガイルダートはどう反応すればいいのか判断しかねていた。
「・・・・・・のあ!?」
マグマトロン様の制止を振りほどこうとしていたらしいビッグコンボイは、襟首を掴まれるとそのまま後ろにいたデッドエンドに投げ渡された。
「・・・隔離しておけ」
「承知いたしました。奥方、御免」
「あ、ちょ!まぐまとろんんん!!」
颯爽と抱え上げられ、悲痛というより不満げな悲鳴を残して、ビッグコンボイとデッドエンドの二名はこの場から退場していった。
「あらガイルダート、もう起きても平気なの?」
こちらの存在にやっと気づいたらしく、D-NAVIが小走りで寄ってきた。
「う、うむ。もう殆ど問題ない。それより、この状況は一体なんだ」
「あー、あのねぇ。ちょっと小洒落たジョークのつもりだったんだけど」
「ぬぁーにが『ちょっと小洒落たジョーク』だ!D-NAVIの馬鹿野郎!!」
怒声を飛ばすのは、未だ池から上がれずにいるスリングだ。よくよく見ると池に居た魚が皆腹を見せて浮かんでいる。なんということだ、全滅か。
というか、セイバーバックが起きる気配がないのだが。まさか死んでいないだろうな。
「レディに向かって野郎なんて失礼ね!くっさいんだから臭い取れるまで池で生活してなさい」
売り言葉に買い言葉でD-NAVIが返す。
「んだとぉ!!!」
元々短期なスリングは頭に血を上らせて池から這い上がろうとしてきた。
「待てスリング」
それに待ったをかけたのは上司の一声。
「まだだ、まだ出るな。臭いが取れておらん」
「チェッ!」
マグマトロン様に言われて渋々上陸を諦めた。別にそこまで水に浸からなくてもいいんだぞ。
「本当に、なにがどうなっているんだ・・・」
「D-NAVIが面白い缶を持ってきたんですよ」
聞き慣れた忌々しい声は上空から聞こえた。
「アルカディス、そこに居たの!?」
「ええ、なるべく臭いが移りたくなかったものですから」
D-NAVIの問いかけに至極真っ当でありながら、当事者たちからすれば身勝手な理由を述べる。
「シュールストレミングって知っていますか?世界一臭い食べ物だそうです」
こいつに聞いたわけでもないのに勝手に喋りはじめた。
「D-NAVIが面白がってそれを入手したらしいんですよ。そして、スリングとセイバーバックを誘って試食会をした。ご丁寧にラベルを剥がして気づかれないようにしてね」
その場の意識のある者の視線がD-NAVIに注がれたが、本人は露ほども気にしていない。
「室内で開封しなかったのが不幸中の幸いですかね。まあ結果はご覧の通りとだけいっておきましょうか。セイバーバックは尊い犠牲です」
やはり動き出す気配のないセイバーバックを一瞥して言う。恐らく、その世界一の臭さをダイレクトに受けたのだろう。
「しかし酷い臭いですねえ。この距離でさえ鼻がおかしくなりそうですよ」
足を組み高みの見物といった態度で言う。
「そうか、ならもっと至近距離で味わってみるか?」
そう言ったのはマグマトロン様で、いつの間にか得物を所持していた。
「いえいえ!これ以上近づいたら私も倒れてしまいます。なにせ繊細なもので」
若干慌てた風に弁解すると、アルカディスはそのまま上空へと飛んで逃げていった。
「・・・・・・・・・・・・チッ」
長い長い間のあと、はっきり聞こえる舌打ちをした。
ああ、まずい。明らかに怒っていらっしゃる。
なにしろ家の一角、それも最も景観の良い場所が使い物にならなくなってしまったのだから。
さすがに不穏な気配は察したらしく、D-NAVIがさっと背後に隠れてきた。
「あの~、マグマトロン様?」
そんな空気の中勇敢にも言葉を発したのは最早池の住人と化しつつあるスリングだ。
「もう上がってもいいですか?オレこのままだと風邪ひいちまいそうです」
スリングの訴えを聞いて暫く自問していらしたようだが、ふいにこちらに視線を向けた。
「ガイルダート、病み上がりで悪いがお前が面倒を見ろ」
「な」
「えええええええ~~~~!!!?」
指名された本人より大げさに反応したのは、後ろにいたD-NAVIだった。
「いやよ!ガイルダートに臭いが移っちゃうじゃない!病人なんだから優しくしなさいよ!!」
D-NAVIの抗議をマグマトロン様は鼻で笑った。
「どうせ鼻は利いていないだろう?」
確かに。実は今の今まで周りが叫喚するその臭いが全く分からなかったのだ。
他のものが怖気づいてしまっている以上、自分がやるのが最も道理に適っている。
「二人は離れに隔離しろ。臭いが消えるまで母屋には近づけさせるな」
「ちょっと話聞きなさいよー」
「それとD-NAVI」
ギロリと睨まれたD-NAVIは思わず畏縮する。
「ここら一帯を改装させるが、費用は全てお前が持て」
「・・・ハア~~~~~?????」
「それで今回のことは咎め無しだ」
もうそろそろ我慢の限界だろう、そう呟いて向けた視線の先で派手な土煙が舞い上がった。
大方、先に隔離、というか避難させられていたビッグコンボイが痺れを切らしたのだろう。
デッドエンド一人では抑え役にもならない。
「後は任せる」
そう仰られてマグマトロン様は第二の騒乱へ駆けていかれた。
「・・・・・・ッ、あーー!サイッアク!」
しばらく呆然としていたD-NAVIがようやく事情を飲み込み喚きだした。
「予定がつぶれてクッサイのの世話もして、お金も出さなくちゃいけないなんてー!」
「最後のは自業自得だろう。ところでなんだ、予定とは」
勝手に出歩かれるといろいろ面倒なことがある。そのために問うと、D-NAVIがバッと振り向き襟を掴んで揺さぶってきた。
「何の予定って、アンタとワタシのデートでしょっ!!で・え・と!!!」
「ハア!!?」
「風邪引いちゃったから予定ズラしてあげたのよ!」
「俺はそんなこと聞いてないぞ!」
「当たり前でしょ!びっくりさせるために内緒にしてたんだから!!」
「俺にも予定があるんだ!スケジュール表もびっしり埋まってそんな時間はない!」
「だ~から忙しいアンタのためにひっそり抜け出して息抜きさせてあげようと思ってあげたのよ!」
「いらん心配はするな!」
「風邪引いたくせに!!」
――へっくち!
そこまで言い合って唐突な音に目を向けると、池の中のスリングがいた。
「・・・なあ、痴話ケンカ後にしてくんね?」
そろそろ鼻水が垂れてきそうな容態らしい。干からびそうなセイバーバックも救助すべきなのだろう。
「・・・D-NAVI」
「なによ」
「とりあえず事態を落ち着かせるのが優先だと思うのだが」
「・・・」
「後でいくらでも言うこと聞いてやるから」
「・・・・・・わかった。絶対だかんね」
一応レディの身である彼女に少々キツイ仕事を手伝わせるのだ、それくらいの代償は仕方ないだろう。
「そうだな、まずありったけの水を」
「ラジャー!」
「まだかぶせんのかよーー!」
日中、まだ少し日が高い時間、水と縁が切れそうに無いスリングの悲鳴が木霊した。
side:MB
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「・・・くさい」
「不可抗力だ」
「お前に移るんなら私が避難する意味がないだろう」
「所有物には匂いをつけたいんだ」
「・・・分からん」
「男心だな」
「もっと分からん」
「とりあえず、風呂だ」
「うん・・・」